長崎地方裁判所 昭和58年(ワ)183号 判決 1991年2月19日
原告 甲野一郎こと 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 小川壽朗
同 林健一郎
同 横山茂樹
同 松岡肇
被告 米田茂
<ほか二名>
右被告ら三名訴訟代理人弁護士 水田耕一
同 吉村敏幸
主文
一 本件訴を却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 被告らは、訴外株式会社長崎銀行に対し、連帯して金二億円及びこれに対する昭和五八年六月三日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告ら
(本案前の答弁)
主文一、二項同旨
(本案の答弁)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は、昭和四六年ころから訴外株式会社長崎銀行(平成元年二月に商号を変更する前の商号は、株式会社長崎相互銀行、以下「訴外銀行」という。)の株式約一万株を所有する株主名簿に登載された株主である。
被告米田は、昭和五二年一〇月一日から同六一年九月三〇日まで訴外銀行の代表取締役社長の、また被告木村は、昭和五二年一〇月一日から同六一年九月三〇日まで同銀行の専務取締役の、被告堀は、昭和五二年一〇月一日から同五九年四月一五日まで同銀行の常務取締役の、各地位にあった。
2 訴外銀行の株式会社マルセに対する不当融資
(一) 訴外株式会社マルセ(以下「マルセ」という。)は、長崎市戸石町に本店を置き、水産養殖業を主たる営業目的とする株式会社であったが、昭和五七年八月二〇日、負債約二〇億円を抱えて倒産し、同日長崎地方裁判所に対し会社整理の申立を行い、その後昭和六〇年三月二九日同裁判所において破産宣告を受けた。
(二) 訴外銀行は、昭和五四年五月ころからマルセと取引を開始し、当初、一億五〇〇〇万円を貸付け、その後も手形割引や信用保証等の形で与信を行ってきたが、マルセの経営が悪化し、貸付金残高が一二億円に達し、貸出限度額を越えるためマルセに対する追加融資が不可能となったことから、訴外銀行本店営業部次長小田俊雄は、昭和五六年一一月二四日、マルセ代表取締役冨田好満らとともに訴外長崎漁連商事株式会社(以下「漁連商事」という。)の事務所で漁連商事の専務取締役成瀬芳孝らに対し、マルセに融資するために、迷惑はかけないのでマルセ振出の手形に漁連商事が裏書をして訴外銀行がこれを割引くという形を取らせて欲しい旨懇請し、翌二五日マルセ振出の額面一億円の手形二通に漁連商事名義で裏書を受けた。その後同様にして、同年一二月二五日額面二億円のマルセ振出の約束手形に、さらに昭和五七年一月二七日額面五〇〇〇万円のマルセ振出の約束手形に、それぞれ漁連商事名義で裏書を受けた。
そのうえで、訴外銀行は、マルセ振出の右各手形を割引いて漁連商事に融資した形をとって、実質的には、既に貸出限度額を越えて融資ができなくなっていたマルセに対し脱法的に融資をした。
(三) 同様にして、訴外銀行は、昭和五七年三月二五日ころ、訴外筒井邦憲(以下「筒井」という。)に対して、マルセに対する融資のため額面五〇〇〇万円の約束手形二通を形式上振り出して協力するように依頼し、これを割引くという形でマルセに対して同額を融資した。
(四) 同様にして、訴外銀行は、昭和五七年三月ころ、マルセに対する融資のため、訴外明海水産有限会社(以下「明海水産」という。)振出の額面一億六〇〇〇万円の約束手形一通を割引いて同額をマルセに融資した。
3 融資した債権の回収不能による損害の発生
前項(二)ないし(四)の各融資は、以上のような融資の経緯やマルセ及び各裏書ないし振出名義人の資力に照らして、法律上も経済上も回収不能となり損害が生じた。
4 損害発生の予見可能性及び被告らの責任
被告らは、いずれも訴外銀行の取締役として会社に対し忠実にその職務を遂行する義務を負い(商法二五四条の三)、融資にあたっては決裁機関である常務会の構成員として、資金回収の安全性の審査について善管注意義務を負っていた。
しかして、本件融資直前の昭和五六年一〇月期のマルセの営業状態、資産状態、並びに、漁連商事、筒井及び明海水産の各支払能力や、各融資の際の前記経緯に照らして同人らに手形金を請求することは不可能であり、その意思もなかったこと等に照らして、これらの融資がいずれも回収不能になることは当然予見できたのに、被告らは前記注意義務を怠り漫然と各融資を決裁して実行させた。その結果、右融資にかかる資金の回収は不能となり、被告らは、訴外銀行に対し少なくとも融資金相当額である七億一〇〇〇万円の損害を与えた。
5 代表訴訟の前提手続
原告は、商法二六七条一項の規定に基づき、昭和五八年四月二七日付内容証明郵便をもって、訴外銀行に対し、被告らの同銀行に対する損害賠償責任を追及する訴の提起を請求し、右書面は同日訴外銀行に到達したが、訴外銀行は同法二六七条二項所定の期間を経過するもその訴を提起しなかった。
6 本件請求
よって、原告は、商法二六七条二項に基づき、訴外銀行のために、被告らに対し、訴外銀行に前記損害のうち二億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年六月三日から支払いずみに至るまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める。
二 被告らの本案前の抗弁
1 原告の本訴提起の意図について
原告が本件訴訟を提起した意図は、訴外銀行のために損害の回復をはかることではなく、専ら、本件訴訟を利用して被告らを誹謗し訴外銀行に損害を与えることを通して被告らに圧力をかけ、これを取引き手段として原告自身の個人的な経済利益を追求することにある。そのことは、以下のような本件訴訟提起前・後の原告の言動その他に照らして明らかである。
(一) 本訴提起前の原告の言動等について
(1) 原告は、昭和五六年六月ころ、訴外銀行に対し、同行が訴外医療法人慈徳会滑石中央病院への融資の担保として取得していた土地及び建物について、その処分を自分に一任するよう要求し、その処分を取り仕切ることによって私利を得ようと企てていた。
(2) 訴外銀行が原告の右要求を断ったところ、原告は執拗に右要求を繰り返し、同人所有の訴外銀行の株式を一〇〇株あて一〇人の者に譲渡し、その譲受人らをして訴外銀行に対し原告の右要求に応ずるよう圧力をかけさせ、あるいは訴外銀行の経営者を誹謗し、これを追放すべき旨を訴えた訴外銀行の株主と取引先を名宛人としたビラを作成してこれを配布すると脅しをかけさせ、また右担保物件である建物に身内の者の表札をかけさせて競売を妨害する意思を表明し、あるいは自民党国会議員と親しい旨自称する人物に訴外銀行の株式一〇〇〇株を譲渡し、同人をして訴外銀行に対し国会議員による国会での質問をちらつかせて原告の右要求に応ずるよう圧力をかけさせた。
(3) さらに原告は、「長崎相互銀行の経営を守る会」という団体を装って、昭和五七年五月三〇日から同年六月二五日にかけ、宣伝カーを使って訴外銀行とその経営者を誹謗し、営業を妨害する内容のアナウンスを長崎市内等において流し、訴外銀行に対し原告の右要求に応ずるよう圧力をかけた。
(4) 原告は、本訴提起直前ころ、訴外銀行の職員荒木英雄に対し、被告米田を名指しして「米田さんは頭が固いと、俺にちっとも儲けさせようとしないと、俺は面白い訴訟を考えてるんだ。」という趣旨の発言をしている。
(二) 本訴提起後の原告の言動等について
(1) 原告は、自己の編集発行する「九州ジャーナル」と題する刊行物の紙上において、本件訴訟における自己の主張を宣伝し、かつ被告らを誹謗中傷する内容の記事を次々と掲載し、これを訴外銀行の多数の行員、株主、取引先等に配布した。
(2) 原告は、講談社発行の「日刊ゲンダイ」の編集部に本件訴訟に関する資料を提供し、昭和五九年一〇月二三日付及び翌二四日付の同紙各紙面に本事件に関する記事を掲載させたうえ、これに九州ジャーナル社名義の送り状を添えて、訴外銀行OB会である長友会の会員、長崎県下の漁協組合長、訴外銀行の行員等に配布した。
(3) 原告は、そのころ小学館発行の週刊紙「週刊ポスト」の編集部に対しても本件訴訟に関する資料を提供し、その記事の掲載を求めていた。
(4) 原告は、昭和六〇年になって訴訟外における宣伝活動をますますエスカレートさせ、自己の名義をもって、本件訴訟に関する自己の主張を記載した「行員の皆様へ」なる文書を作成し、これを訴外銀行の行員全員に配布した。
(5) 原告は、さらに、被告らを誹謗し、訴外銀行の信用を毀損し、その営業の妨害となる記事を掲載した「九州ジャーナル」を発行し、これらを訴外銀行の行員、元行員、取引先や一般家庭にまで広範囲かつ無差別に配布し、不安にかられた顧客の預金引き出し等により訴外銀行に莫大な損害を与えた。
(6) 原告は、訴外銀行の労働組合に対しても原告に同調するように働きかけた。
(7) 原告は、昭和六一年一二月一二日訴外銀行に対し、右(1)、(4)、(5)で記載した文書と同様の文書を訴外銀行の株主に配布する意図の下に株主の住所・氏名を入手するため株主名簿の閲覧謄写を請求し、訴外銀行が正当な理由に基づかない請求であるとしてこれを拒絶するや、訴外銀行を被告として株主名簿等の閲覧謄写を求める訴えを提起した。
(8) 原告は、前記(二)(2)の株式の譲受人らをして「中小企業育成会」なる架空の団体を作らせ、訴外銀行各支店において右譲受人らが同行した紹介者に対し融資するよう強要し、あるいは、本訴提起前後において原告の仲間と見られる人物を訴外銀行に派遣し、同人をして訴外銀行の関係者に対し話合いによる「円満な解決」を働きかけさせた。
(9) また、原告は、平成元年夏ころから「政治経済新聞」と題する刊行物上に「小説長崎銀行」なるタイトルで物語を連載し、虚偽の事実に基づき被告らの人格の誹謗中傷を続けている。
(三) 原告は、訴外銀行に対する関係以外にも、昭和四一年ころから本件訴訟提起までの間、本件と類似の所業を繰り返している。
さらに、原告は、本件とほぼ同じ時期に、訴外九州相互銀行に対しても同様の手段で脅迫を行い、多額の融資を得た上にさらに融資の要求を繰り返し、民事訴訟を提起している。
(四) 本件訴訟における活動に照らすと、原告は、被告らに対し損害賠償請求をなすべき原因に関して何らの具体的な知見も資料も有しないまま、無責任な訴訟提起をしたものというべきである。
2 株主権の濫用
商法二六七条に規定されている株主の権利は、株主が株主たる資格において与えられているものであるから、この権利は、株主としての利益のために行使されることを要し、株主たることと関係のない個人的利益のために行使することは許されない。もし、株主が右の権利を、会社利益の侵害のもとに個人的な利益を追求する手段として行使するときは、権利の濫用となり、その訴は不適法になる。原告の本件訴訟提起も右のとおり権利の濫用にあたるから、本件訴えを却下すべきである。
三 本案前の抗弁に対する原告の認否
1(一) 本案前の抗弁1(一)の各事実は否認する。
(二)(1) 同1(二)(1)のうち、「九州ジャーナル」が原告の発行するものであること、昭和五九年五月一日付及び同年六月二六日付各「九州ジャーナル」を訴外銀行の行員、株主、取引先等に配布したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(2) 同1(二)(2)のうち、「日刊ゲンダイ」紙に本件裁判に関連する記事が掲載されたこと、原告が右各紙を九州ジャーナル社名義の送り状を添えて長友会の会員、長崎県下の漁協組合長、訴外銀行の行員等に配布したことは認めるがその余の事実は否認する。
(3) 同1(二)(3)の事実は否認する。
(4) 同1(二)(4)の事実は認める。
(5) 同1(二)(5)のうち、原告が昭和六〇年五月一五日付、同年六月二五日付、同年七月二〇日付各「九州ジャーナル」を一般に配布したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(6) 同1(二)(6)の事実は否認する。
(7) 同1(二)(7)のうち、原告が訴外銀行に対し株主名簿の閲覧謄写を請求し、それを同行が拒絶したので同行を被告として株主名簿等の閲覧謄写を求める訴えを提起したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(8) 同1(二)(8)の事実は否認する。
(三) 同1(三)、(四)の各事実は否認する。
2 同2の本件訴訟提起が権利の濫用であるとの被告らの主張は争う。
本件は、被告らが銀行に与えたと思われる損害についての訴訟である。しかるに、訴外銀行は、被告らの立場を防御して、取引きに関する資料の提供に応じようとせず、事案の解明を妨げようとする態度に終始している。訴外銀行が原告の不法行為によって損害を被ったというのならば、原告に対して堂々と不法行為による損害賠償請求の訴えを提起すべきである。被告の本案前の抗弁で主張されている事柄の当・不当はそこで決着がつけられることになるはずである。訴外銀行は、原告に対してそのような訴えを提起する勇気も自信もないので、未だ原告に対する訴えを起こすことができないのである。
訴外銀行が、正面から争うことをさけながら、原告を専ら誹謗中傷し、かつ、裁判の進行を妨げるために本案前の抗弁を提出して、このような中傷を行っているのは卑劣である。
四 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)の事実は認める。
(二) 同2(二)のうち、訴外銀行がマルセに融資を行ったこと(ただし、取引の開始は昭和五五年五月である。)、漁連商事専務取締役成瀬芳孝が原告主張のような各約束手形に裏書をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
訴外銀行の漁連商事に対する総額四億五〇〇〇万円の貸付けは、マルセに対するいわゆるトンネル融資ではない。
(三) 同2(三)のうち、同年三月二五日ころ、訴外銀行が筒井振出しの額面五〇〇〇万円の約束手形二通を割引いたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(四) 同2(四)の事実は否認する。明海水産に対する従来からの手形貸付の手形を書き換えたものである。
3 同3の事実は否認する。
4 同4前段の事実は認める。同後段の事実は否認し、その主張は争う。
漁連商事や筒井には当時十分な支払能力があったし、法律上も手形金請求は可能である。
訴外銀行は、当時、マルセの主取引銀行として融資取引先の企業の維持存続に関し重大な責任を負い、地域社会に対しても金融機関としての社会的な責任を負っていた。そのような状況下で、マルセに対する融資を打ち切るかどうかは極めて高度な経営判断に属することで、単に目先の損得だけで経営者の行動を批判することはできない。
さらに、企業の経営には危険が付きものであるから、取締役の会社業務執行に関する責任については、いわゆる「ビジネス・ジャッジメント・ルール」が適用されるべきであり、業務執行者が企業経営上の判断から取引に伴う危険をあえて冒し、その結果取引が不成功に終わって会社に損害を与えたとしても、これによって取締役が私利を図ろうとしたというような特別の場合でない限り、会社業務の適正な執行の範囲内にあり、これがために取締役が会社に対し損害賠償責任を負うことはない。
5 同5の事実は認める。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1(当事者)及び5(代表訴訟の前提手続)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 本案前の抗弁について
被告らは、本件代表訴訟の提起は、会社利益の侵害のもとに株主としての利益に関係のない純個人的な利益を追求する手段としてなされたもので、株主権の濫用にあたる旨を主張するので、まずこの点について検討する。
1 事実関係
(一) まず、本件訴訟の経過は、記録によると次のとおりである。
本件訴訟は、当初、小川壽朗弁護士一人を代理人として昭和五八年六月一日に提起された。当初の請求は被告らに金三〇〇〇万円の支払いを求めるもので、その請求原因の第一は、訴外銀行は訴外医療法人慈徳会滑石中央病院に対し総額金九億三〇〇〇万円を貸付けていたが、同病院は昭和五五年四月債務総額二〇億円以上を残して倒産し、訴外銀行が右貸付けに際して同病院の土地建物に付していた担保権に基づく競売手続によっては数億円の回収不能額が出ることが明らかで、右損害は被告らの忠実義務違反によって生じたものであるとして、株主の代表訴訟によりその賠償を求めるとするもの、第二はマルセに対する総額一二億円の不良貸付けによる損害数億円について同じく代表訴訟によりその賠償を求めるとするもの、第三が本件請求原因にある漁連商事の裏書き手形によるマルセに対する総額四億五〇〇〇万円の不当融資について代表訴訟によりその賠償を求めるとするものであった。
これに対し被告らは、各融資がその時点では規定にしたがって適法になされており取締役たる被告らに注意義務懈怠はないとして争ったところ、原告は、準備手続中における裁判所からの釈明等に対し、右請求原因第一の滑石中央病院に関する件及び第二のマルセに対する直接融資一二億円の件に関しては、被告らの責任原因に関する具体的事実主張等を十分整理して主張することが出来ないまま、本訴提起後一年半以上を経て林健一郎弁護士らが訴訟代理人として加わった後に、昭和六〇年五月以降順次撤回し、代わりに本件請求原因2(三)、(四)のとおり筒井の件及び明海水産の件が加わり、かつ、請求が順次拡張されたうえで昭和六三年二月に至ってようやく準備手続を終えるに至った。
(二) しかして、前記争いのない事実並びに《証拠省略》を総合すると、本件訴訟に至るまでに原告と訴外銀行の間には以下のような経緯が存在し、かつ、本件訴訟後もこれに関連して種々の交渉が存在することが認められる。《証拠判断省略》
(1) 訴外銀行は、滑石中央病院に対する融資に当たって、同病院の建物や理事長名義の土地、建物などに昭和五三年以降第一順位の根抵当権を設定していたが、同病院が手形不渡りを出した後である昭和五五年五月に各担保物件に訴外赤星修名義で賃借権設定請求権仮登記が、六月に訴外太閤商事株式会社名義で同月一〇日売買を原因として所有権移転請求権仮登記及び同日付け金銭消費貸借の不履行を条件とする停止条件付賃借権設定仮登記がなされ、その後、病院の進入口に太閤商事の関係者であるという乙山春夫が抵当権実行を妨害する妨害建築物を建てたりした。
そして原告は、かねて付き合いのあった右乙山春夫に連れられてきた滑石中央病院の理事長から、抵当権者らと話を付けて前記病院の土地建物全部を有利に売却することを、このころ依頼されたと述べている。ちなみに、原告は、それまでにも短期賃借権などの絡んだ競売物件の任意売却を取り仕切ったことが何回かあったという。
(2) 訴外銀行は、昭和五六年三月になって前記担保物件について競売を申立て、競売手続が開始された。そうすると、原告は訴外銀行の担当者に対し、競売に付された同病院及び理事長名義の土地建物の売却処分を自分に一任したうえで、任意の売却処分をするように要求してきた。すなわち、原告は、前記賃借権設定登記や妨害建築物を建てている者らと面識があるので話を付けてやるから物件を自分にさばかせろと要求してきたものである。訴外銀行はこれを断った。しかし、原告はなおも再三にわたって執拗に処分一任を要求し、それでも訴外銀行が応じないとみるや、昭和五七年三月、自己の保有する訴外銀行の株式の一部を訴外丙川夏夫、丁原秋夫など一〇人に一〇〇株あて譲渡した(ただし、配当金の振込先は依然として原告の口座になっており、後に、これらの株式はいずれも原告名義に戻されている。)。そのうえで、右譲受人と称する者らは、昭和五七年五月ころ以降、原告の要求に応じろ、もし応じなければ担保物件はいつまでたっても売れず、株主に損害を与えることになる、株主総会が荒れるぞなどとして訴外銀行に多数回押し掛けて暴言を吐くなどして再三にわたって圧力をかけ、さらに、「長崎銀行の株主と取引先の皆様へのアピール」と題し、滑石中央病院の土地建物の不動産競売手続が進入口部分に建てられた第三者の妨害建築物の存在などによって進展せず融資の回収が困難になっていること、そこでこれによる損害の賠償を経営者らにさせ、無責任経営者らを退陣させようなどと訴える内容の「長崎相互銀行の経営を守る会、事務局長丙川夏夫」名義のビラを作成し、これを町中に撒くなどと脅しをかけた。しかし、訴外銀行がこれに応じないでいると、右担保物件の一つである理事長の自宅に、右丙川夏夫らとともに前記の要求をしていた戊田冬夫名義、次いで、乙山春夫名義の表札が掛けられ競売の妨害がはかられたりした。
(3) 他方、この間、原告自身も自ら電話などで当初からの要求を続けていた。
また、前記の丙川夏夫らは原告の所有するマンションに「中小企業育成会」なる事務所を設け、訴外銀行の支店等にいろんな人をつれてゆき融資を強要するようなことを繰り返した。また、昭和五七年秋ころには、同マンションを本店として丙川夏夫が代表者で原告や戊田冬夫らが取締役となっている訴外甲田株式会社から訴外銀行に対し、担保価値のない物件を出して金二五〇〇万円を融資するようにとの要求が再々なされたりもした。しかし、訴外銀行はこれらに応じなかった。
(4) 一方、原告は、昭和五七年七月末、その所有する訴外銀行の株式のうち一〇〇〇株を東京で丙田研究所を主宰するという乙田松夫に譲渡した、そのうえで、右乙田松夫は同年八月ころから、訴外銀行に対し、滑石中央病院の物件は示談でさばいたらどうか、これを聞き入れなければ玉置代議士に頼んで社長を国会に喚問するなどと言ってきて、担当者の目の前で同代議士の秘書という者に電話をかけたりした。しかし、訴外銀行はこれにも応じなかった。
(5) その後、昭和五八年四月になって、原告は、訴外銀行に対し取締役の責任追及の訴えの提起を要求し、前述のとおり同年六月一日、本件訴訟を提起した。その前後である同年五月末ころから六月末ころにかけて、前記「長崎相互銀行の経営を守る会」の名で街頭宣伝車を使って前記ビラと同様の趣旨の街頭宣伝活動が執拗になされた。ちなみに、右「長崎相互銀行の経営を守る会」なるものの事務所は当時原告が所有していた前記マンションの一室にあり、街頭宣伝車の所有名義は原告及び原告の妻が代表者である訴外甲山興産株式会社にあった。
また、前記乙田松夫も、同年六月以降、前同様の要求をなし、また本件代表訴訟の件も直接話し合って円満に解決したらどうか、そうしなければ原告にはプロのライターがついているからうるさいことになる、色々な雑誌、新聞等にも取り上げられることになるなどと脅してきた。それでも訴外銀行が応じないでいると、同人は、昭和五九年一〇月には金融ジャーナリストを称する丁田竹夫を同行して本件訴訟の件を取材させ、同年一〇月二三日、二四日付けの「日刊ゲンダイ」紙に本件訴訟の件が原告側の言い分を中心にして大きく掲載された。原告は、右新聞を大量に購入して、訴外銀行の関係者等に配布した。
(6) また、原告自身も、昭和五九年五月ころから、九州ジャーナル社名義で不定期に発行していた「九州ジャーナル」なるタブロイド版の新聞のほとんどの紙面を使って、「不良債権に揺れる長崎相銀」とか「長崎相銀事件の内幕」などと題して本件訴訟や長崎相銀と長崎漁連との訴訟の報道などの形をとりながら、被告らを誹謗し訴外銀行の信用を毀損する原告側の主張や訴訟経過の一方的な報告をなし、これを訴外銀行の行員や取引先等多数の関係者に送付し始めた。そこで、準備手続担当裁判官から原告に対し、本件訴訟の係属を利用してのこのような活動について注意がなされたが、その後も、原告は、前記のとおり「日刊ゲンダイ」の記事がでるや九州ジャーナル社名で多数の訴外銀行関係者や漁協組合員その他あてに「日刊ゲンダイ」紙とビラの送付を行い、また、同年一一月以降も「九州ジャーナル」紙で前記訴訟等の経過や証言等の「報道」や行員への「裁判資料」の送付などを行った。さらに、昭和六〇年六月には「破産が確定した長崎相銀不正融資の貸付先」なる見出しを付しマルセの破産や本件訴訟等に関する原告側の一方的な主張等を述べ、訴外銀行の信用を毀損しその営業を妨害する内容の記事を掲載した九州ジャーナル紙を、訴外銀行の県内の各店舗の周辺などで通行人や店舗等に大量に配布し、訴外銀行の多数の顧客に信用不安をもたらし、問い合わせや預金引き出しが殺到するなど訴外銀行の業務に多大の支障と損害を与えるなどし、その後も、本件訴訟の係属を利用しての訴外銀行に対する訴訟外での執拗な攻撃を続けた。
(7) さらに、原告は、昭和六一年一二月には、本件訴訟の経過報告の為に必要であるとして訴外銀行に対し株主名簿等の閲覧等を請求し、これを拒否されるや翌六二年一月株主名簿等の閲覧等を求める訴訟を提起した。しかし、同事件の担当裁判官は証拠調べの結果、原告の行動は株主としての利益を守るために言論活動により多数派を形成しようとしてするものではないことが推認され、かつ、その手段方法においても相当性を欠いていることは明らかで、株主名簿の閲覧等請求は権利の濫用であるとして、原告の右訴えを退けた。右の判断は控訴審においても維持され、平成二年六月四日の上告棄却により確定するに至っている。
(8) なお、本件訴訟に関しては、前記のような乙田松夫の脅迫まがいの「話し合い」の勧告は別としても、訴外銀行側と原告側それぞれが、本件訴訟を金銭的な利益の提供によって訴訟外で「円満に解決する」方向での、様々な仲介の動きが、多くの者によってなされたことを述べている。その一例として、原告は、訴外銀行の楠本常務から原告に対し訴外銀行が甲山興産株式会社に五億円の金を融資し一〇〇〇万か二〇〇〇万円程度の訴訟費用を支払う旨の提案があったが断ったといい、反対に、訴外銀行側は、松尾部長に対して第三者である弁護士を通じて原告への八億円の融資と訴訟費用二〇〇〇万円の支払い及び原告の株式の売却等の話があったという。ただし、そのような提案を自らの側がしたことについては、互いにこれを否定している。
(三) 他方、原告と訴外銀行との間での以上のような交渉と前後して、原告は、同じ地元金融機関である訴外株式会社九州相互銀行(以下「九州相互」という。)との間でも、前記の丙川夏夫や乙田松夫とともに、銀行側の落ち度を追及する過程で、融資名目で事実上の金銭的な利益を得ている事実がある。すなわち、《証拠省略》を総合すると以下の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
(1) 原告は、昭和五六年四月、九州相互の株式四万二〇〇〇株を取得した。
原告は、昭和五六年一二月、九州相互の大村支店の行員が取引先に対して原告が札付きの人間である旨を述べて原告経営のビルへの入居を妨げたという件について、同支店において強硬に抗議を行ったうえ、前記丙川夏夫らほかの者と共に、九州相互の本部において、常務取締役である訴外岡部俊介に対し、四大新聞に全面広告で謝罪広告を出せなどと要求し、岡部常務がこれに応じられないと応えると、それなら融資でいいから金を貸してくれと要求した。そして、その後の交渉の過程において、原告は前記乙田松夫(ちなみに原告は同人に対し本件同様九州相互の株式一〇〇〇株を譲渡している。)とともに岡部常務を訪ね、ご高配をお願いする旨の紹介文の付記された衆議院議員相沢英之の名刺を持参し、五億円の融資を求めたりした。そのような交渉の結果、九州相互は、翌五七年二月二〇日、原告の経営する訴外第一物産株式会社に対し金二億円を貸し渡した。
(2) また、同年三月初旬ころには、原告は、岡部常務に対し、新たに設立された訴外高木興産株式会社(この会長である訴外丁原秋夫は、訴外銀行に対して融資を要求した前記甲田株式会社の取締役であり、また原告から訴外銀行の株式一〇〇株を譲り受けたとして訴外銀行との交渉の際にも登場する。)に九州相互熊本支店から七〇〇〇万円を融資するよう求めたが、右融資は熊本支店で審査した結果断られた。この点について、原告は、その後、岡部常務は右融資を承諾したのに熊本支店が断ったため原告が仲介者として約四五〇〇万円を丁原秋夫に融資せざるを得なくなったとか、九州相互大村支店が原告の高木興産への送金手続を誤ったことから同社が不渡りを出して倒産したため同額の損害を被ったなどと主張するに至った。そして、同年五月、前記二億円のうち既に返済した二〇〇〇万円を控除した残り一億八〇〇〇万円について、九州相互大村支店の支店長富崎鉄次に対し、借入に当たって提供した担保物件の一部で代物弁済したことにするよう強く要求した。小川壽朗弁護士も原告と共に同様の要求をしたが、同支店長はこれを断った。しかし、原告は、その後、代物弁済の合意が口頭で成立したなどと主張して右残金を返済せず、また、九州相互との訴訟では、右二億円の貸付けは当初から謝罪に代わる趣旨でなされたもので、ガツガツ回収するといったような貸付けではなかった旨を供述している。
(3) 他方、原告は、その後もさらに、前記乙田松夫とともに九州相互に追加の融資を求め、同年七月初旬ころ岡部常務に申し入れたうえで承諾を得たとして、同月一四日、九州相互大村支店に対しパチンコ店の新築費用等として一億六〇〇〇万円の融資を申し込み、事業計画書等を提出した。しかし、九州相互大村支店では、先の一億八〇〇〇万円の支払いが怠られており、担保や返済能力もないとして同年八月二〇日に至って融資を断った。
(4) ところが、原告は、これらの件について九州相互に対し強硬に交渉を要求し、同銀行がこれに応じないとみるや、同年一一月二五日、小川壽朗弁護士を代理人として、乙原物産を原告、九州相互、岡部常務及び富崎支店長各個人を被告に長崎地裁大村支部に訴えを提起し、一旦承諾したパチンコ店の資金一億六〇〇〇万円の融資を断られ別途資金を調達するまでの間に相当する得べかりし営業利益「月額二八〇〇万円の五、六か月分一億五五〇〇万円」の損害賠償、前記高木興産に融資し倒産により回収できなかったという四五〇〇万円の損害賠償、前記二億円の融資の際提供した担保のうち前記代物弁済から除かれたという物件の抵当権登記の抹消などを請求した。
(5) そのうえで、原告は、九州相互等を被告とする右訴訟についても、昭和五八年一月一五日号の九州ジャーナルで「訴えられた九州相互銀行」として大々的に取り上げ、客観的な報道の形を装いながら右訴訟における原告側の一方的な主張を宣伝した。九州相互は、右訴訟に対し、金一億八〇〇〇万円返済請求の反訴を提起した。
(6) 右訴訟における審理の結果、前記のような事実や、原告が代物弁済に提供したという物件の鑑定評価額は全部で五四〇一万円にしか過ぎないこと、九州相互の送金手続に誤りはあったが実害はなく高木興産の倒産とは時期的にも因果関係がないことなどが明らかになり、昭和六二年二月、乙原物産の前記請求はいづれも棄却され、九州相互の反訴が全部認容された。昭和六三年一一月になされた控訴審の判断も同様であり、これに反する原告本人の供述や上申書はたやすく信用できないとされている。
(四) ちなみに、原告の過去の経歴などに関して、《証拠省略》によると、次のような事実が認められる。
すなわち、原告は、以前約一一年余り訴外銀行の行員であったことがあるが、退職後、昭和四一年一月二六日には詐欺の疑いで長崎県警に逮捕された。右逮捕容疑は、新聞報道によると、直接には、約一億円の負債を負って倒産した訴外扶桑工業の倒産にからんだ取引先からの四五〇万円の手形詐欺事件であるが、原告はその中心人物で、他に横領や弁護士法違反の余罪があり、被害総額は数千万円に及ぶとされている。
そして、現に、長崎地方裁判所は、昭和四三年六月一一日、右事件に関して、原告に対し横領等の罪で懲役一年八月(求刑同じ)の実刑判決を言い渡している。
さらに、原告は、昭和五三年二月二七日、出資の受入れ預り金及び金利等の取締りに関する法律違反の罪で検挙された。西日本新聞の報道によると、原告が当時福岡で経営していた乙川信販は、法定限度をはるかに越える高利で金融業を行い、貸付金を返済しても担保の手形を返さず、暴力団を使って脅迫的に取り立てを行い、担保となった不動産を乗っ取ったなどの容疑が報じられている。
なお、その後も、本件等を含め原告あるいは原告の経営する前記乙原物産や甲山興産などの関係する民事訴訟事件等が絶えないことは、当裁判所にとって職務上明らかである。
2 本件訴訟提起の意図
以上認定の事実を総合して検討すると、丙川夏夫のグループや「長崎相互銀行の経営を守る会」、乙田松夫らの前記認定の各行動が原告の意を受けてなされていることは明らかである。そして、以上認定の諸事実、就中、原告が本訴提起二年近く前から原告自身であるいは丙川夏夫らのグループや乙田松夫を介するなどして滑石中央病院の土地建物を原告の手で任意処分することを執拗に要求してきた経過や、本訴提起に前後して街頭宣伝車による街頭宣伝や乙田松夫による勧告やビラなど訴外銀行に対する圧力が一段と激しくなっていることやその後の経過などの諸事実を総合して検討すると、本件訴訟は、当初、これによって訴外銀行や被告らを困惑させ、滑石中央病院の土地建物の原告の手による任意処分に応じさせ、そのことによって経済的な利益を得るための取引きの手段の一つとして提起されたものであることが明らかである。また、本訴提起前に、原告が九州相互との関係では銀行側の落ち度の追及等に藉口して融資の名目で経済的利益の提供を受けることに成功し、さらに執拗な融資の要求を繰り返していること、訴外銀行に対してもそのグループが同様に無理な融資の交渉を試みていること及び本訴提起後の動きなどをも総合すると、本訴の提起やこれを維持する目的の中には、これによって訴外銀行や被告らを困惑させ、これを、融資や訴訟外での円満解決などに名を借りて訴外銀行から経済的な利益の提供を受けるための取引き手段とすること、あるいは、そのための手立てとしての前記のような執拗なビラや街頭宣伝車や九州ジャーナルによる訴外銀行への直接的な攻撃を「訴訟事件の報道」などとして正当化し拡大してゆく名分とすることなどが含まれていることを、十分推認することができる。
これに対して、原告はその本人尋問ないしは上申書等において、かかる意図を否認し、銀行経営を正す等の公益的目的を強調し、取引きの思惑を否定しているが、前記認定の事実経過などに照らして、到底措信できない。
3 会社訴権の濫用
ところで、商法二六七条による株主の代表訴訟は、一定の資格を有する個々の株主に会社の有する取締役への責任追及の権利を会社のために行使することを許し、会社の利益の回復ひいては株主の利益の回復を図るための制度であって、個々の株主に認められた代表訴訟提起の権利は、株主が株主としての利益を守るために会社の正規の体制による運営を監督是正する手段として認められている権利であり、いわゆる共益権に属するものである。したがって、もし株主が、右のような法の趣旨を離れて、会社の利益ひいては他の株主の利益の犠牲ないしは侵害の下に、株主たる資格とは関係のない純然たる個人的な利益を追求するための取引き手段として、その権利を行使するならば、それはもはや株主の権利の濫用であって許されないものといわざるを得ない。
これを本件についてみると、原告の本訴の提起は、前記認定のように、会社を困惑させることによって、滑石中央病院の担保物件の私的処分あるいは融資などを名目とする金銭的利益を得るための取引き手段として、ないしは、そのための手立てとしての会社に対する攻撃を正当化する名分を得るためになされていることが明らかであり、かつ、これら原告の求める利益が、訴外銀行の株主たることと関係のない純然たる個人的な利益であることはいうまでもない。そして、前記認定の事実によると、原告はもともと本件担保物件の私的な処分を訴外銀行の抵当権の行使を妨害している後順位の「権利者」らから持ち込まれているのであって、原告による右私的な処分というのが、つまるところは担保権者である訴外銀行の犠牲において成り立つ性質のものであることは明らかである。また、融資等を名目とする金銭的利益の提供が訴外銀行の利益に反することはいうまでもないところであり、さらに、原告らによる本件訴訟の係属を利用しての前記認定のような訴外銀行に対する攻撃が、信用を重んずべき訴外銀行の業務を妨げその利益を大きく害していることも明らかである。
4 小括
そうすると、原告による本件訴訟の提起は、会社利益の犠牲ないしは侵害のもとに、株主たる資格とは関係のない純然たる個人的な利益を追求する取引き手段としてなされているもので、株主の権利を濫用するものといわざるを得ない。
そして、かかる場合には、訴権の濫用として訴え自体を却下するべきものと解する。
三 結論
以上の次第で、原告による本件訴訟の提起は訴権を濫用するものであるから、原告の主張するような点について被告らに取締役としての責任があるか否かの検討に入るまでもなく、直ちに本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 井上秀雄 浦島高広)